大判例

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大分地方裁判所 昭和63年(わ)133号 判決

本店所在地

大分市舞鶴町一丁目三番三八号

株式会社同建

(右代表者代表取締役 吉富一)

本籍

同県玖珠郡九重町大字松木一五三番地

住居

同県別府市南須賀九組の三

藤田新八

昭和二二年一月一日生

本籍

福岡県三池郡高田町大字上楠田三〇六四番地

住居

大分県玖珠郡九重町大字松木一五七番地の二

松尾修二

昭和二三年五月二二日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官松本弘道出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社同建を罰金五〇〇〇万円に、被告人藤田を懲役一年六月に、同松尾を懲役一年にそれぞれ処する。

被告人藤田、同松尾に対し、この裁判の確定した日から三年間それぞれの刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社同建(以下「被告会社」という。)は、大分市舞鶴町一丁目三番三八号に本店を置き、土木建設工事の設計、施行、請負等を営業目的とする資本金五〇〇〇万円の株式会社(昭和六〇年一一月二一日設立登記)であり、被告人藤田新八は、被告会社代表取締役として被告会社の業務全般を統括していたもの、被告人松尾修二は、被告会社の取締役総務部長として、被告人藤田の指揮を受け同会社の経理部門を統括していたものであるが、被告人藤田、同松尾は、被告会社総務部兼経理部次長の高柳良雄らと共謀のうえ、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空経費を計上して簿外資産を蓄積するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和六〇年一一月二一日から昭和六一年三月三一日までの事業年度において、被告会社の所得金額が二億五〇五〇万二九九一円で、これに対する法人税額が一億五九四万二五〇〇円であるにもかかわらず、昭和六一年五月二九日ころ、大分市中島西一丁目一番三二号所在の所轄大分税務署において、同税務署長に対し、同事業年度の所得金額が一七〇八万七六五五円で、これに対する法人税額が四八七万三八〇〇円である旨虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の同事業年度における正規の法人税額と前記申告税額との差額一億一〇六万八七〇〇円を免れ

第二  昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの事業年度において、被告会社の所得金額が一億九五八〇万三三〇三円で、これに対する法人税額が八三七九万八六〇〇円であるにもかかわらず、昭和六二年五月二九日ころ、前記大分税務署において、同税務署長に対し、同事業年度の所得金額が三五八七万八七五四円で、これに対する法人税額が一四五五万一一〇〇円である旨虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の同事業年度における正規の法人税額と前記申告税額との差額六九二四万七五〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実について

一  被告会社代表者及び同代理人の当公判廷における各供述

一  被告人藤田及び同松尾の当公判廷における各供述

一  被告人藤田の検察官(一〇通)及び司法警察員(四通)に対する各供述調書

一  被告人松尾の検察官(一一通)及び司法警察員(四通)に対する各供述調書

一  吉富一の司法警察員に対する供述調書

一  高柳良雄の検察官に対する昭和六三年五月一日付、同月四日付(二通)、同月五日付及び同月一一日付各供述調書

一  高柳良雄の司法警察員に対する供述調書九通

一  竹本里美(三通)及び泰清美(昭和六三年四月三〇日付)の検察官に対する各供述調書

一  戸高伸支の検察官(四通)及び司法警察員(二通)に対する各供述調書

一  佐々木李信(二通)、梶谷久及び木村正信の司法警察員に対する各供述調書

一  木村一雄の司法巡査に対する供述調書

一  司法警察員作成の「会社(富士商事、同建)の役員の変更確認報告について」と題する書面

一  司法警察員作成の「法人税法違反被疑事件捜査報告」と題する書面三通

一  司法警察員作成の「株式会社同建の昭和六一年三月期における期末未成工事調整分の算出について」と題する書面

一  司法警察員作成の「株式会社同建の昭和六二年三月期における期末未成工事調整分の算出について」と題する書面

一  大蔵事務官作成の役員報酬調査書、給料手当調査書、接待交際費調査書、寄付金調査書、組織関係費調査書、雑収入調査書、貸倒損失調査書、雑損失調査書、交際費損金不算入額調査書、事業税認定損調査書、みなし犯則損金調査書、その他所得の調査による増減金額調査書、大分県同和建設協業組合から株式会社同建に対する営業譲渡に係る調査書、工事原価の修正金額に係る調査書及び期末一括計上金額に係る調査書

一  司法警察員ら作成の「営業譲渡に伴う株式会社同建の営業開始日、昭和六一年一月一日を基準とした資産、損益の仕分け計算について」と題する書面

一  司法警察員作成の「寄付金の損金認定について」と題する書面

一  司法警察員作成の「引落(し)圧縮された貸付金の反面調査について」と題する書面一一通

一  司法巡査作成の「引落圧縮された貸付金の反面調査について」と題する書面五通

一  司法巡査作成の「所在捜査について」と題する書面

一  司法警察員作成の「法人税法違反捜査報告」と題する書面

一  司法警察員ら作成の供述状況報告書

判示第一の事実について

一  高柳良雄の検察官に対する昭和六三年五月四日付及び同月七日付(本文が六枚綴り)各供述調書

一  泰清美の検察官に対する同月九日付供述調書

一  猪股哲司の大蔵事務官に対する供述調書

判示第二の事実について

一  高柳良雄の検察官に対する昭和六三年五月七日付供述調書(本文が二四枚綴り)

一  松木純子の検察官に対する供述調書

(法令の適用)

罰条 被告会社につき、法人税法一六四条、一五九条一項、二項

被告人藤田及び松尾につき、刑法六〇条、法人税法一五九条一項

刑種の選択 被告人藤田及び同松尾につき、いずれも懲役刑を選択

併合罪の処理 被告会会社につき、刑法四五条前段、四八法二項被告人藤田及び松尾につき、刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(重い判示第一の罪の刑に加重)

執行猶予 被告人藤田及び松尾につき、刑法二五条一項

(量刑の事情)

本件は、被告人らが、被告会社の二年分について、その所得額において合計三億九三三三万九八八五円を秘匿し、税額において合計一億七〇三一万六二〇〇円をほ脱したという事案であって、そのほ脱率は八九・七六パーセントという高率におよんでいるうえ、動機について、被告人らは、被告会社の資産状態は決して楽ではなく、多額の税金を払うことは被告会社の経営、業績を伸ばすうえで支障になり、また、部落差別の歴史経過に照らして税金についての優遇措置があって然るべきとの気持ちもあって、本件犯行に及んだ旨供述しているが、それ自体脱税の動機として、酌量すべき事情とは認められない。また、脱税の手口も、各期末の確定申告の際に、組織関係費という架空の経費科目を計上したうえ、貸付金や仮払金を資産科目から落として簿外資産とし、課税対象となる接待交際費等を右の組織関係費に振り替えるなどして、課税対象となる総所得金額を減額するというものであり、その態様は必ずしも巧妙とはいえないものの、大胆なものであって、被告人らの納税意識の稀薄さを窺わせるものとして悪質というほかなく、とくに、被告人藤田は、被告会社の代表取締役としての地位にありながら、経理担当者からの経理報告を受け、その状況を把握しながら、各期の申告納税額を定めて脱税を指示するなど、本件各犯行の主導的役割を果たしてきたものであり、被告人松尾は、経理部門の担当部長として、被告人藤田の指示に基づき、部下の会計担当者に指示して具体的な脱税のための帳簿操作に当たらせるなどの重要な役割を果たしてきたものであって、これらの事情に照らせば、本件に負うべき被告人らの刑責には重いものがあるといわなければならない。

しかしながら、他面、被告人らは自己の行為を捜査、公判を通じて素直に認め、自己の行為を反省するとともに、被告人藤田及び同松尾は、被告会社の役職から退き、被告会社において、今後は経理体制を改善し、税務処理を税理士に依頼するなどの措置をとって、正しく納税してゆきたい旨申し述べていること、本件脱税額につき、一部すでに納税したほか、未納部分についても被告会社と熊本国税局間で、その一部については分割して支払うこととし、そのために被告会社振出の約束手形一一通(額面合計三三〇〇万円)を同国税局に交付するとともに、その余については支払方法につき別途協議することとし、未納法人税担保のため被告会社所有の物件に抵当権を設定することを合意するなど、これを確実に完納することを約束していること、被告人藤田を除く被告人らにはこれまでに前科前歴がなく、被告人藤田には風俗営業取締法違反等の罰金前科はあるものの、同種の前科及び懲役刑に処せられた前科がないこと等の被告人らに有利な事情も認められるので、これらの事情を総合考慮して主文の刑を量定し、被告人藤田及び同松尾に対しては、本件についての深い反省を強く求めたうえで、今回に限ってその執行を猶予することとした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 松尾昭一)

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